(母をたずねて三千里 第1話「いかないでおかあさん」 - YouTubeより)
『母をたずねて三千里』に登場するアメデオは何ザル?
『母をたずねて三千里』というアニメをご存じでしょうか?
カルピスこども劇場の第2作として1976年1月〜12月に放送されていました.
イタリアに住む少年マルコ(9歳)がアルゼンチンへ出稼ぎに行ったお母さんを訪ねる旅に出発.2年かかってようやく母子が出会うという物語です.
マルコはイタリアから出国する際,アメデオと名付けられたサルを連れていきました(「アメディオ」ではなく,「アメデオ」が正しい).
アメデオはマルコの兄トニオのペット.体毛の色は全身が白、顔・耳・四肢の先が茶という風貌をしている小型のサルです.
(母をたずねて三千里 第2話予告「ジェノバの少年マルコ」 - YouTubeより)
ところで,アメデオは何という種のサルなのでしょう?
アメデオは何という種のサルなのか?
ハヌマン・ラングールではない!
放送終了後40年もたった今頃になって気になり,「母をたずねて三千里 サル」で検索しました.
すると,yahoo知恵袋()にはなんとハヌマン・ラングールという驚愕の回答が(画像もyahoo智恵袋より)
白っぽい体毛に黒い顔というのはたしかにアメデオっぽくはありますが,ハヌマン・ラングールの主な生息地はインドやスリランカです(ちなみにヒト以外の霊長類における子殺しが初めて確認されたサルとしてつとに有名).
でも設定は違うんですね.
日本アニメーションによるとアメデオは南米産のサル
日本アニメーションによると,アメデオは南米産のサルとされています.
(母をたずねて三千里 | 作品紹介 | NIPPON ANIMATIONより)
◆アジア・アフリカに生息するサルは旧世界ザル,中南米に生息するサルは新世界ザルと呼ばれます.
アメデオはまぎれもなく新世界ザル.ハヌマンではありません.ハヌマン・ラングールは旧世界ザルなのでアメデオ=ハヌマン・ラングール説は間違いです(しかも知恵袋にはアメデオではなくアメディオとこれまた間違いが).
体の大きさから考える
もう一つ、ハヌマンがアメデオに該当しない証左をあげておきます.
ハヌマン・ラングールはヒト以外の霊長類では中型タイプ.体長40〜70cm,尾長70〜108cm,体重5.5〜23kgになります.
仮にアメデオがハヌマンだとしたらまだかなり小さい子どもの個体となります.
ですが,それはありえません.
次のシーンはマルコの母アンナがアルゼンチンに出発してから1年後,まだマルコとアメデオがイタリアにいる第2話の一コマ.
(母をたずねて三千里 第2話予告「ジェノバの少年マルコ」 - YouTubeより)
カゴの中にはボトル・野菜・魚等が入っています.イタリア人男児の腕力がいかほどかはわかりませんが,相応の体重のサルがカゴの端っこに乗ったら片手持ちで走りながら運搬するには手が余るでしょう.アメデオの体重は500gもないのではないかと思われます.生後1年くらいならこの体格もありかもしれません.
しかしながら,2年にわたるマルコとの旅を経た後でもアメデオの体サイズに変化はみられません(マルコの年齢および旅の期間の根拠はこちら).
画像は母アンナと再会した後のマルコとアメデオです(最終回第52話,画像はYouTubeより).
むしろマルコの成長により,アメデオが相対的に小さく見えなくもないという.
ヒトも含め,霊長類の多くの種の生活史はアカンボウ期,コドモ期,ワカモノ期,オトナ期に分けられ,体サイズはそれに比して大型化します.
仮にアルゼンチン出発前のアメデオがコドモ期だったとしたら,その後,体は発達するはず.しかしながらその様子は皆目窺えません.
ということは,チンパンジーやオランウータンといった大型類人猿のような成長に時間がかかる種ではなく,アメデオは早い段階で体サイズの成長が終了するタイプの霊長類と考えられます.
アメデオは何という種のサルなのか?
アメデオは新世界ザルのなんという種に該当するのでしょうか?
その前に,中南米に生息する新世界ザルについてざっくり説明しておきます.
新世界ザルとは(ざっくり説明)
新世界ザルは体サイズから大きく2つの仲間に分類されています.
一つはより大型(概ね体重1kg以上)のサル達.オマキザルやクモザルの仲間です.
もう一つはより小型(概ね体重1kg以下)のサル達.マーモセットやタマリンの仲間です(画像は京都大学霊長類研究所等を参照してください).
オマキザル科のサルの多くは尾に特徴があります.それは枝等をつかむことができる尾です.尾の先の内側には毛が無く,指紋のような紋様=尾紋があります.尾紋をもつ尾で枝をつかみ,ぶら下がることができます.
一方,マーモセットやタマリンには枝をつかんでぶら下がることができる尾がありません.アメデオが尾で何かにぶら下がったシーンは登場しなかったのではないでしょうか?(もしあったらお知らせくださると有り難いです).
さらに加えると,マーモセットやタマリンという種は成長が早い種といえます.例えば野生のライオンタマリン(ゴールデンライオンタマリン)は約18ヶ月齢で成熟個体の体重に達します(『サルの百科』,p.65).
以上,体サイズ,成長速度,尾の特徴から,アメデオは「南米産のサル」のうちマーモセットもしくはタマリンに該当すると考えられます.
アメデオのモデルはシルバー・マーモセットか?
ではアメデオのモデルになったのはどのマーモセットもしくはタマリンでしょうか?
候補の一つはこれ,シルバーマーモセットです.
(『サルの百科』,p.60より.下の画像も)
尻尾の色も体毛と同じようです.
ただ,顔と手足の色はアメデオと違います.
上半身だけならフタイロタマリンのほうがそれっぽいです.
(http://i.gzn.jp/img/2007/05/24/10animals_may_go_extinct/368386751_af4015248a_o.jpgより)
他にも顔が黒いマーモセットやタマリンはいるのですが,全身の体毛が白色かつ顔・手足が黒または茶という新世界ザルは知りません.
【2022年7月6日追記】ピグミーマーモセットは体色がまったく違いますし,なにより体重100〜150gと新世界ザル最小です.アメデオには合致しません.
◆結論です.
アメデオに合致する新世界ザルはいません.したがってアメデオはシルバー・マーモセットの体色に他の新世界ザルの顔と手足の色を組み合わせた架空の新世界ザルと考えられます.
おわりに
ここまで書いて,もう一度アメデオについて検索したら,マダガスカルにしか生息しないベロー・シファカという説も見つけました.
しかしながら,ベロー・シファカは旧世界ザルである上,全身の体毛は白色ではあるものの頭部は茶色,しかも移動方法(ロコモーション)は後肢二足によるジャンプ(『サルの百科』,p.37より) .とてもじゃないけどアニメの中のアメデオの動きとはまったく異なります.
もしかしたら設定資料集(板橋区の図書館に蔵書しているようです)にアメデオについての疑問の答えが書いてあるかもしれません.機会をみつけて利用するかもしれませんが,取り急ぎ今回のエントリーはここまでとします.お読みくださりありがとうございました.
2018年4月5日,『母をたずねて三千里』監督の高畑勲さんがご逝去なされました.数々の素晴らしい作品をありがとうございました.心からご冥福をお祈りいたします.