日本語には同じ漢字を使うのに読みが違うことがたくさんあります.
そのせいか,一つの漢字もしくは熟語を異なる読み方でうっかり覚えてしまっている場合があると思います.
筆者の場合,下僕がそうでした.
もしかして,あなたも下僕を「しもべ」と読んでませんか?
もしそうなら,ぜひこの記事を読んでみてください.
下僕の読みは「げぼく」・「しもべ」?
広辞苑(第5版)で「げぼく」を引くと,漢字は「下僕」,意味は「男の召使い.下男.」と書かれていました.
Google検索やweblio辞書などでも同じ結果です.
一方,「しもべ」を引くと,漢字は「下部・僕」,意味は次の4つでした.
- 身分の低い者
- 雑事に使われる者
- 検非違使庁の下級官吏で,盗賊の逮捕,集塵の拷問,流人の押送などをつかさどったもの
- 鎌倉時代,侍所・政所の雑事に従事した下役
つまり,下僕(げぼく)と下部・僕(しもべ)は当てる漢字も違えば意味も異なるのです.
それでもまだ腑に落ちなかったので,漢字検定で下僕の読みを確かめることにしました.
「下僕」は漢検2級に登場
検索すると,漢字の読み 問題1 - 漢字検定2級 問題集 絶対合格サイトに下僕が登場していました.
このサイトに記載されていた漢検2級の問題文は「下僕として仕える.」です.
赤文字の漢字の読みは,もちろん「げぼく」.
広辞苑にもあったのと同じく,「下僕」の読みはやはり「げぼく」なのです.
では,「げぼく」と読むべき「下僕」をなぜ「しもべ」と読んでいたのでしょう?
創作物での漢字の読みはかなりフリーダム
この記事を書くちょっと前,尾田栄一郎著『ワンピース』903話(第90巻のp.47)でサンジが水蒸気(ゼウス)を相手にこんな台詞を述べていたのを目にしました.
「だが覚えとけ
下僕ならおれの方が先だからな!!!」
この「下僕」のルビが「しもべ」でした.
本来「げぼく」と読むべき「下僕」に対し,尾田先生は故意に「しもべ」という読みをあてているのです.
サンジの台詞のような事例は,決して少なくないようです.
青空文庫等のふりがなデータを分析しているふりがな文庫によると,「下僕」で最も多い読みはなんと「しもべ」の76.4%.次点が「げぼく」の12.7%でした.
(ふりがな文庫の“下僕”のいろいろな読み方と例文|ふりがな文庫より引用)
ちなみに下僕を「ギヤルソン」と読んだのは与謝野晶子とのことです.
このように,創作物の中に登場する下僕の読みはかなりフリーダムと言えます.
筆者が下僕の読みのひとつを「しもべ」と覚えているのはこういった小説等の影響かもしれません.
どうでもいいのですが,おそらく最初に「しもべ」というワードを耳にしたのはバビル2世のOPテーマでしょう(『三つのしもべに命令だ♪』).
外国語の下僕(げぼく)と僕(しもべ)の違いとは?
「下僕」の読みは本来「げぼく」だけど,小説等の中では「しもべ」等いろいろな読みが付されていることがわかりました.
でも,ここまでくると英語等ではどうなのかということがちょっと気になります.
Google翻訳での下僕の英訳は"servant"でした.
"servant"を現代英英辞典で引くと,"a person who works in another person's house, and cooks, cleans, etc. for them"とあります.これを読む限り,男性限定の言葉とは思えません.
一方,「しもべ」のGoogle翻訳の結果は"a servant man".「しもべ」は基本的に男性に用いる言葉のようですね.
英語には"manservant"という単語もあり,意味は下男,しもべ,従者です.現代英英辞典での意味は"a male servant,especially a man's personal servant"とあるので,男性にのみ用いる言葉のようです.
なお,「僕」でGoogle翻訳にかけるとこうなるので注意が必要です.
それはさておき, "servant"をスペイン語にすると"sirviente".ただし女性に用いるときは"sirvienta"になるようです(スペイン語には男性名詞と女性名詞があります).
まとめ
以上,下僕の読みについて,ごくかんたんにではありますが調べてみました.
- 辞書等によると,下僕の読みは「げぼく」が正しい
- ただし,小説等では下僕の読みに「しもべ」等を用いるケースが多々ある
- 英語で下僕は"servant"であり,男性限定ではないようだが,「僕(しもべ)」は"a servant man"もしくは"manservant"なので男性にのみ用いるようだ
- スペイン語の"sirviente"は男性に対して用い,女性には"sirvienta"になる
日本語では,本来用いていた漢字の読みが次第に変化することがあります.漢検HPによれば,本来は世論(せろん)だったのが「よろん」と読まれたり,固執(こしゅう)が「こしつ」になった当て読みの事例を紹介しています.
下僕の読みが「げぼく」以外に「しもべ」になるのが当て読みに該当するかどうかはわかりません.でも,こういったフリーダムさ,もしくは絶対ではなく時とともに変化していく,というのは日本語の(あるいは他の言葉も)の一つの特質なのかもしれません.
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