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規制緩和後,貸切バス事業者はぎりぎりの人数で操業するようになった【軽井沢スキーバス事故から3ヶ月経ちました】

当記事はプロモーションを含んでいます。

【追記2020年1月15日】謹んでお悔やみ申し上げます。

はじめに

2016年1月15日に起きた軽井沢スキーバス事故から3ヶ月が経ちました.事故でお亡くなりになった若者たちとご遺族の方へ,謹んで哀悼の意を表します.

昨日も貸切バス事業者関連のエントリを書きました.読んでくださった方,コメント下さった方に感謝いたします.

連日のエントリで気が引けるのですが,自分で指摘しておきながらデータ分析(といってもグラフ作るだけですが)で検証していなかった点について明らかにできたので,再度バス関連のエントリを書きました.

この記事の内容は,貸切バス事業者はぎりぎりの従業員数で操業しているのではないか?ということについてです.

 
昨日のエントリではこう書きました.

規制緩和前年である平成11年の業者数が2,336だったのに対し,平成24年には4,536と1.94倍になりました.ただし,平成22年からは増加が頭打ちの傾向にあります.では,どのような業者が増えたのでしょうか?大手なのか中小なのかが気になるところです.

貸切バス事業者の規模の良い指標となるのがバス保有台数です.

規制緩和後,貸切バス業界はこう変わった【軽井沢スキーバス事故から3ヶ月経ちました】 - おまきざるの憂鬱

 

そして,バス保有台数は平成14年以降,10台程度で推移していることをグラフで示し,「このことは,規制緩和後,貸切バス保有台数が少ない中小事事業者が相次いで参入したことを示唆しています.」と述べました.

 

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規制緩和後,中小事業者が相次いで参入したことを示唆するデータはもう一つあります.

それは,バス保有台数よりも直接的なデータである事業者の従業員数です.

 

貸切バス事業者に必要な従業員数とは

今回は,公益社団法人日本バス協会による最新の資料,『日本のバス事業2015年版(平成27年)』(http://www.bus.or.jp/about/pdf/h27_busjigyo.pdf)を用いました.

この資料のpp.4-5には,昭和25年から平成25年までの事業者数,車両数,営業収入等のデータが記載されています.このうち,事業者数,従業員総数,運転者数のデータを用いて,以下の二項目を計算しました.

・1事業者当たりの運転者数
・1事業者当たりの管理部門従業員数

計算方法は簡単です.

1.従業員総数から運転者数を引き,運転者以外の従業員数を計算します.
2.運転者数を事業者数で割る.→1事業者当たりの運転者数
3.運転者以外の従業員数を事業者数で割る→1事業者当たりの管理部門従業員数

運転者以外の従業員の中には清掃担当の方もいるかもしれませんが,ここではすべて管理部門従業員としました.


◆ここでちょっとだけ説明を読んで欲しいことがあります.

それは,貸切バス事業の許可を得るにあたって必要とされる人員についてです.なお,以下の文章には拙エントリからのコピペを含みますが自分で書いたものですから剽窃には当たらないと思います.小文字の部分は読み飛ばしていただいてもかまいません.

規制緩和がスキーバス事故をもたらした?貸切バス業界の規制緩和後の変容を探る - おまきざるの憂鬱

 

貸切バス事業の許可を得るためには,
専従役員1名
安全統括管理者
運行管理者
整備管理者
(1級,2級,3級の自動車整備士の資格が必要),
運転手が必要です.

このうち,運行管理者については「自動車運送事業者は,事業用自動車の咽喉の安全を確保するために,営業所ごとに,国家資格者である運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから,一定数以上の運行管理者を選任しなければならない」とされています.貸切バス事業者の場合には,保有車両29両まで1名,以降30両ごとに1名追加とあります.

つまり最低でも上記4名の管理部門従業員(役員含む)および運転手合計5名が必要です.ただし,貸切バス事業者として許可を受けるにはバスが最低5台必要(9m以上のバスのみの場合)です.

ただし,長距離バスを運行しようとすると,運転手1名では不可になりました.

それは,貸切バスの交替運転手の配置基準なるものが平成25年8月1日から適用されたからです(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/dl/kousokubus-02.pdf).

読み飛ばしていただいて問題ありませんが,書いておきます.

・拘束時間が16時間を超える場合
・運転時間が2日を平均して1日9時間を超える場合
・連続運転時間が4時間を超える場合
さらに休憩等の条件をクリアしても
・ワンマン運行の上限距離は昼間は1回の運行600km超
・夜間は1回の運行500km超
・1日に2つ以上の運行のときは600km超
これらの場合には交替運転手を配置することとされました.

つまり,平成25年8月以降にいわゆる夜行長距離バスを運用するなら
運転手1名と交代要員1名,合計2名が必要になったのです.

したがって,1つの事業所で保有しているバスが5台であり,その全部をフル稼働させるという前提にたつと,事業者には

・運転手5名+交代要員5名=10人の運転手
・最低4名の管理部門
・合計14人の人員が必要

になるのです.

 

では,データから見られる実態はどうでしょうか?

規制緩和後,1事業者当たりの運転者は10人,管理部門は4〜5人にまで減った

次の図をご覧下さい.

 

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平成2年のデータだけなぜか従業員数が多かったので,平成3年〜平成25年のデータを用いました.

 

平成11年の規制緩和直前には,1事業者当たりの運転者数は13.9人管理部門従業員数は13.1人もいました.

それが平成12年に運転者12.6人,管理部門10人へと減少しました.

さらに平成17年以降,運転者は10人前後,管理部門は半数の4〜5人にまで減ってしまいました.

「1つの事業所で保有しているバスが5台であり,その全部をフル稼働させるという前提」で計算した1事業所に必要な最低従業員数14人にいみじくも合致しています.


しかし,この合致は1つの事業所で保有しているバスが5台であり,その全部をフル稼働させるという前提があるからでは?と疑問に思うことでしょう.

ここで,まだ出していないデータがあります.それはバスの実働率です.


バス実働率を考慮すると,貸切バス事業者はぎりぎりの従業員数で操業している

1事業者当たりのバス保有数,つまり1社平均のバス台数は平成25年で10.8台(48808台/4512事業者)です.そして,平成25年のバスの稼働率は51.7%です(http://www.bus.or.jp/about/pdf/h27_busjigyo.pdf,p.4).

つまり,10台のバスを保有していても,1日にすれば5台のバスしか運用できていないのです.

5台のバスを夜行長距離営業で運用するには交代要員を含め運転者が10人必要なことはすでに述べた通りです.

したがって,これまでにはじき出した数字から浮かび上がった貸切バス事業者の平均像(平成25年分について)は次の通りです.

・保有バス数は10台
・実働バス数は5台
・従業員数約14名
・うち運転者約10名
・管理部門従業員数約4名

つまり,ぎりぎりの従業員数で操業していると思われます.

さらに言えば規制緩和後,バス5台という最低基準で大量に新規参入したと思われる従業員数10人未満の零細事業所の場合

・保有バス数は5台
・実働バス数は2〜3台
・従業員数約8〜9名
・うち運転者約4〜5名
・管理部門従業員数約4名
という,さらにぎりぎりの従業員数で操業しているものと思われます.

このエントリのタイトルにつけたように,平成12年に規制緩和されてから,少なくとも平成17年以後,貸切バス事業者はぎりぎりの人数で自転車操業するようになったと言えます.

 

おわりに

あくまで資料を分析しただけなので,実態がどうなのかは知るよしもありません.しかしながら,自転車操業をしているバス会社が運転手の健康に留意し,乗客の安全を最優先に考えているかどうかはについては,一生懸命がんばっている事業者に対して申し訳ないけれど,どうしても懸念せざるを得ません.

 

軽井沢スキーバス事故以降,行政は事業者への監督を強化する方向に舵を切ったようです.国土交通省は出発前のバスに対する抜き打ちの該当監査を行った結果を公表しました.

報道発表資料:軽井沢スキーバス事故を受けた街頭監査の実施結果について - 国土交通省


まだ熊本地震が終息していないため,ボランティアが現地入りすることは難しいようですが,復興のきざしが見えたら多くの方がバスを利用して移動することと思います .バス利用者はバス事業者を信用してバスに乗るしかありません.バスに乗った後は,せめてシートベルトをするようにしてください.

 

ではまた.

 

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