おまきざるの自由研究

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男子フィギュアスケート新時代突入を振り返る:そして真・4回転時代へ

当記事はプロモーションを含んでいます。
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【追記1】四大陸選手権男子SPを視聴しています.もはや新時代を超え,「真・4回転時代」に突入です.そしてネイサン・チェン選手がSPで103.12点をマークしました.
1位 ネイサン・チェン 103.12
2位 宇野昌磨 100.28
3位 羽生結弦 97.04

【追記2】FSの結果,上位3名.
1位 羽生結弦 206.67
2位 ネイサン・チェン 204.34
3位 宇野昌磨 187.77

総合
1位 ネイサン・チェン 307.46
2位 羽生結弦 303.71
3位 宇野昌磨 288.05

はじめに

筆者はカタリーナ・ビット選手に魅了されて以来のフィギュアスケートファンです.

2015年にこのブログを始めて間もなく,羽生結弦選手が男子フィギュア史上初の300点超えを達成しました.

そのとき,「フィギュアスケートの満点はいったい何点なのか?」という素朴な疑問を持ったことをきっかけに,素人にはまったくわけがわからないフィギュアスケートのプロトコル(得点表)を生まれて初めて読み,ブログで記事にしました.結果,フィギュアスケートがもっと好きになりました.

羽生結弦選手の満点は339.44点!フィギュアスケートGPシリーズ2015NHK杯322.4点は脅威の得点率94.98%!! - おまきざるの憂鬱

 

ところでこの研究によればフィギュアスケートのファン層は平均43.3歳,しかも女性が86.1%を占めます.テレビで観客席を覧ててもそんな感じですね.

一方,世の男性諸氏にとって男子フィギュアなぞどうでもいいと思われる方が多いかもしれません.しかし,2015-16シーズンは男子フィギュアにとって非常に大切な節目の年だったのです.

このエントリーは2014年シーズンから現在までの男子フィギュアの変容ぶりを振り返り,昨日(2017年2月16日)から開催されている四大陸選手権,そして3月の世界選手権〜来季の冬季五輪を楽しむ人が一人でも増えばと思い,以前書いた記事を引用・加筆したものです.

2014年2月14日,ソチオリンピックを振り返る:4回転ジャンプはまだ一か八かの大技だった

3年ばかり時計の針を戻します.

2014年2月14日,男子フィギュアシングルのFS競技が行われました.羽生選手が金メダルを獲得した,あのソチオリンピックです.

www.huffingtonpost.jp

各選手のFS(フリースタイル)における4回転ジャンプの内容を引用しました(成功回数/試行回数).

<町田選手>

「最初の4回転トーループに失敗して転倒した。ただ、動揺を見せずに続く4回転トーループを決めた。」(1/2)

<フェルナンデス選手>
「冒頭の4回転トーループ、4回転サルコーから3回転トーループへのコンビネーションをしっかりと決めた。」(2/2)

<高橋選手>
「最初の4回転トーループの着地が決まらなかったが、その後は3回転ジャンプの連続を決めた。後半は3回転ルッツから3回転トーループへのコンビネーションのほか、3つの3回転ジャンプを安定して決め、笑顔でリンクを後にした。」(0/1)

<羽生選手>
「冒頭の4回転サルコーで転倒したが、続く4回転トーループはきれいに決めた。ただ、次の3回転フリップでも着地でバランスを崩し転倒。」(1/2)
 

<パトリック・チャン選手>

「4回転トーループから3回転トーループへのコンビネー ションを完璧に飛んだ。しかし続く4回転トーループの着地で手を突いたほか、トリプルアクセルでもバランスを崩した。 」(1/2)

<デニス・テン選手>(こちらから引用
「最初の4回転トウループはグイっと跳び上がりこらえて着氷。トリプルアクセル-3回転トウループの連続ジャンプは危なげなく跳んだ。」(1/1)

【注:以下,トーループはトウループとします】


◆まとめます.

・6位以内に入賞した選手は,全員が4回転ジャンプをプログラムに取り入れており,総ジャンプ数は10回だった.
・だがその成功率は60%(6/10).

高橋大輔選手はプログラムに組み込んだたった1回きりの4回転ジャンプを失敗しました.

一方,自分のプログラムにおけるすべての4回転ジャンプを成功させたのはフェルナンデス選手ただ一人.

これらの結果から一目瞭然なのは,わずか3年前まで4回転ジャンプは当たり前の技などではなく,依然「一か八かの大技」だった,ということです.でもその時代はあっけなく終焉を迎えてしまいました.

「4回転ジャンプは跳べて当たり前」になった

羽生選手が300点を超えた当時,2015-16シーズンのNHK杯とGPファイナルでの演技を異次元あるいは新時代と表現しているものが多く目に付きました.

なぜか?それは何よりもまず4回転ジャンプの成功率の高さにあります.

2015-16GPファイナル進出全6選手がFSに複数の4回転ジャンプを組みました.成功率87.5%(14/16).上述したソチオリンピックの60%(6/10)は言うに及ばず,2014年12月GPファイナルの成功率72.76%(8/11)をも上回りました.

これが意味するのはただ一つ.4回転ジャンプは「一か八かの大技」から「跳べて当たり前の技」になったのです.

ただし,どの4回転ジャンプでも跳べて当たり前なわけじゃありません.

4回転ジャンプには5種類あります.基礎点の低い順に
①4回転トウループ 10.3
②4回転サルコウ 10.5
③4回転ループ 12.0
④4回転ルッツ 13.6
⑤4回転アクセル 15.0
(得点の出典:フィギュアスケートの採点法 - Wikipedia

 

羽生選手は,2015-16シーズンでは4回転トウループと4回転サルコウを跳んでおり,今季は新たに4回転ループに挑戦しています.

宇野昌磨選手は2016年4月22日,米国での3大陸対抗戦 コーセー・チームチャレンジカップにて4回転フリップに成功し,ギネス世界記録に認定されましたhttp://www.guinnessworldrecords.jp/news/2016/10/uno-shoma-445706

フィギュアスケートの試合ではプログラムに組み込むジャンプ・スピン・ステップ・シークエンスの種類・回数が制限されていて,例えば4回転-3回転などのコンビネーションではない「同じ種類の単独ジャンプ」を2回行うと2回目の基礎点は70%になります.

高得点を狙うには,違う種類のジャンプをできるだけ多くプログラムに組み込む必要があります.

ソチオリンピックでの高橋大輔選手のように,4回転トウループ1発しか跳ばないというプログラムは一線級の選手では少数になってしまいました(4回転1本だけのプログラムで4回転5本跳ぶ選手に勝つこともありますが・・・4回転1本のリッポンはなぜ5本のネイサンチェンに勝てたのか/★仏杯後2人は同じコーチ+中国杯| 蒼い炎のように ☆ 若きアスリート羽生選手の情熱).

 

高橋大輔選手の言葉はこの点を如実に物語っています.

日本男子フィギュア界をけん引してきた先駆者は、4回転が多用される今季に「時代が変わってきたな。もう戻れないと思います。すごい戦いになっている。進化するのは大事」と率直な感想を述べた。高橋大輔さん、4回転多用の演技に「もう戻れない」 - フィギュア : 日刊スポーツ

 

高橋選手の功績とすばらしい演技はフィギュアファンなら誰もが記憶していることでしょう(筆者は今でも高橋選手のマンボが大好きです).でも,繰り返しますが彼にとっての4回転ジャンプは「一か八かの大技」でした.

ついでに書いておくと,2014年12月15日の高橋選手の引退の直後,町田選手までもが2014年12月28日に突然引退を宣言しました.当時は開いた口がふさがらなかったけど,町田選手はもしかしたら1年もたたない未来がこうなることを予測していたのかもしれません.

2015-16GPファイナルは時代の変わり目だった

2015-16シーズンで変わった点はまだあります.


◆GOE(出来映え点)が大幅に上がりました.ただし,これは羽生選手についてのみ該当すると言ってよいかもしれません.羽生選手は3つの4回転ジャンプを成功させた上,そのうち2つで最高の出来映え点(GOE3点)を獲得しました.2015-16シーズンにおける4回転ジャンプGOEで3点の評価を得たのは羽生選手唯一人でした.

なお,羽生選手はカナダ大会SPの3回転アクセルとNHK杯の3回転アクセル+2回転トウループでGOE3点を記録しています.FSの記録を一通り目を通した限りでは,ジャンプのGOEで3点というのは羽生選手以外に見当たりませんでした.

◆演技構成点も格段に進歩しました.判定方法は毎年変わるので以前の年との比較には厳密には意味がないかもしれませんが,2014年GPファイナルで演技構成点90点以上を獲得したのが羽生選手のみだったのに対し,2015年GPファイナルでは3人が95点を超えました.

これからの選手が要求される4回転ジャンプ・出来映え点・演技構成点全てレベルが,2015-16シーズンで確実に上がったのです.

新時代とは異次元の出来事が普通になることなのだ

これは2015年GPファイナルでのジュニアの選手のFSプロトコルから4回転ジャンプを抜粋したものです.

1   Nathan CHEN          4S  4T  4T+2T
2   Dmitri ALIEV             4T  4T+2T
3   Vincent ZHOU          4S  4S
4   Sota YAMAMOTO    4T+2T
5   Daniel SAMOHIN     4T+3T  4S
6   Roman SADOVSKY 4S

1位のネイサン・チェン選手がジュニア時代から複数の4回転ジャンプを当たり前のように跳んでいたことがわかります.他の選手もそうです.

恐ろしいことに,ネイサン選手は今季すでに300点超えを達成しています全米フィギュアスケート選手権2017のライスト・放送・結果速報【ネイサン・チェン】 | フィギュアスケート速報:米国国内戦のため,ISU国際スケート連盟公式記録ではありませんが)

そのときのプロトコルをもとにして満点=上限点を計算したら358.01点となりました(違ってたらすみません)

これは今季の羽生選手の満点=上限点である349.68点を上回ります(昨年は339.44点).羽生選手は新たな4回転ジャンプに挑むとともに,自らの記録をも上回るべくさらなる完成度の高さを目指しています.そうしなければ若い選手たちに追い抜かれてしまうのです.

2015-16GPファイナル6選手の得点率は拙エントリーで書きました.2015-16シーズンは羽生選手たちによって男子フィギュアの時代が確実に変わった年です.昨年の時点ですでにボーヤン・ジン選手が351.53点のプログラムを組んでいたことからも,今年2016-17はさらに高難度プログラムと高完成度を争うより熾烈なシーズンとなるのは容易に予想できました.3年前とはもう異次元のレベルです.しかし,見ている者にとってそれは"普通"の出来事になってしまいました.それが新時代というものなのでしょう.

4回転ジャンプが当たり前になったと書きましたが,技術の進歩は決してポンポン進むわけじゃありません.

4回転の歴史を振り返ってみよう。

 まず1988年に、カート・ブラウニング(カナダ)がトウループに成功。続いて98年にティモシー・ゲーブル(米)がサルコーを、2011年にブランドン・ムロズ(米)がルッツに成功した。サルコー、ルッツはいずれも10年以上を空けての新技開発だったが、今季は羽生のループだけでなく、宇野昌磨も史上初の4回転フリップに成功している。時代は一気に、4回転新時代に入ったといえる。羽生結弦の発言にみるフィギュア4回転新時代 : 深読みチャンネル : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2/4

 

今回の拙エントリーでは,2015-16シーズンですでに4回転新時代に突入したことを書きました.

そして,2016-17シーズンは4回転ジャンプへの入り方がさらに工夫され,4回転ジャンプの種類が増え,4回転を含むコンビネーションジャンプが増え,さらに基礎点が1.1倍になる演技後半での4回転ジャンプも増えました.

昨年からすでに始まった男子フィギュアスケート新時代.選手達にとっては実に厳しい闘いとなっています.

でも,新時代の到来をリアルタイムで見られるのはファンにとってこの上なく幸せなことなのです.

 

さて,今日の四大陸選手権には羽生選手,宇野選手,ボーヤン選手,パトリック・チャン選手,そしてネイサン選手らが出場します.TV中継までもう2時間を切りました.見逃せません.生きててよかったです.

ではまた!

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