
はじめに:耳慣れないガルとカイン
熊本地震で観測された最大加速度が阪神淡路大震災を上回っていたというニュースが2016年4月16日にありました.ガル・カインについての記述を引用します.
14日夜の熊本地震の本震の揺れは、震度7を観測した熊本県
益城 町で最大加速度1580ガル、最大速度92カインをそれぞれ記録、加速度は1995年の阪神大震災の891ガルを大きく上回ったことが防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の地震波の解析でわかった。(中略)阪神大震災の揺れは891ガルと112カイン、2004年の新潟県中越地震は1722ガルと148カインだった。今回の熊本地震の最大加速度は、阪神大震災の約2倍で、新潟県中越地震より少し小さかった。
ガルとカインは「加速度と速度はともに、地震の揺れの大きさを示す指標で、両方がそろって大きいほど地震の破壊力が強い」と記事にありました.
ガルもカインも初耳です.
記事から,ガルは加速度,カインは速度と読み取れます.でも何のことだかこれっぽっちもわかりません.
わからないことをわからないままにしておいたのではなんの理解にもなりません.そこで,地震の大きさに関係する「ガル」と「カイン」が何なのかについて調べてみました.
ガルとは
◆ガルを理解するため,まずは加速度についてみてみましょう.
加速度をわかりやすく解説
「1秒間に変化する速度の変化量」のことです.
ごく簡単な図で見てみましょう.
自転車の前部・後部両方に子どもを乗せたお母さんをよく見かけます.

子どもを二人も乗せてると,発車したてのスピードはさっぱり上がりません.歩いたほうが早いくらい.
時速3.6km(秒速1m)といったところです.
でも,保育園の登園時刻ぎりぎりになるとスピードモードに変身し,
時速25.2km(秒速7m)くらいで疾走(ちょっとスピード出し過ぎですが,計算しやすい値なので).
では,ママが直線上で自転車を走行させていることを前提に加速度を計算します.
図は右から左へ見てください.
加速度(等加速度直線運動に限ります)を計算するのは,実は簡単です.
・速度変化量を時間変化量で割ったものが加速度
・加速度=速度変化量/時間変化量
計算します.
◆分母の時間変化量からいきましょう.
図の矢印の下にこう書いて有ります.
「発車して秒速1mになった時点を0秒」
「秒速7mに達したのはその3秒後」.
単位の秒をs(second)で示すと,時間変化量(Δt)=3-0[s]
◆次に分子の速度変化量です.
「矢印上の0秒時点での速度が毎秒1m」
「それから3秒後に毎秒7m」
単位をm/s(メートル毎秒)で示すと,速度変化量Δv=7-1[m/s]
◆では加速度を求めましょう.
加速度=速度変化量/時間変化量ですから(m/sをsで割る)
加速度=(7-1)/(3-0)
=6/3
=2[m/s2]
となりました.加速度の単位 m/s2 はメートル毎秒毎秒と読みます.
加速度とは「1秒間に変化する速度の変化量」のことですから,子ども2人を前後に乗せて疾走するママの自転車の「上の図の3秒間」について計算した加速度は2メートル毎秒毎秒,すなわち「1秒間に毎秒2メートル」の割合で速くなったことを意味します.
ガルは加速度
◆では肝心の地震の揺れの大きさの単位である「ガル」の話にうつりましょう.
ガルは地震の揺れの加速度に用いられる単位です.
「人間や建物にかかる瞬間的な力の事」であり,速度が毎秒1cmずつ速くなる加速状態を1ガルとしている(出典:地震の大きさを表す単位)」とのことです(ガルはガリレオ・ガリレイの頭文字からきてるそうです).
1ガル=1cm/s2(1センチメートル毎秒毎秒)
熊本地震で計測された最大加速度は1580ガルでした.
ということは,
1580ガル=1580 cm/s2
=15.8 m/s2
そう言われてもぜんぜんピンときませんね.
日常生活だと,クルマの急発進時に体感できるのが加速度です.
シートベルトも締めず,何の心の準備もないまま加速度に突然見舞われるのが大地震,と聞いたらどう思います?
しかも,これまでの大地震では熊本地震をはるかに上回る最大加速度が観測されています.
2011年3月に東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震では,宮城県栗原市築館において計測された最大加速度が2933.7ガル(東北地方太平洋沖地震 - Wikipedia),2008年6月の岩手・宮城内陸地震の最大加速度は4022ガル(岩手県一関市の一関西の震度計)でした(岩手・宮城内陸地震 - Wikipedia).
ひとたび大地震が起こると日常生活では想像もできない加速度が人間や建物に襲いかかるのです.
カインは速度
カインはガルよりも説明が簡単な単位です.
カインとは速度のことです.ガルの説明でメートル毎秒(m/s)という速度が登場しました.それがカインです.1カイン=1cm/sです.
どうという事はありません.日常的に良く耳にするキロメートル毎時(km/h)より小さな単位を使ってるだけのことでした.
1カイン=1cm/sなので,
1カインは1秒の間に1cm動いたことを意味します.
熊本地震では最大速度92カインが観測されました.1秒間に92cm動く揺れの大きさ,ということになります.
1995年の兵庫県南部地震では112カイン(1秒間に112cmの揺れ),2004年の新潟県中越地震では148カイン(1秒間に148cmの揺れ)が観測されています(読売新聞記事より).
ガルと同様,カインの値が大きいほど地震の揺れによる人間や建物への影響は大きくなります.
まとめ
地震の大きさには主に4つの単位があります.震度,マグニチュード,そしてガルとカインです.この4つを区別しましょう.
①震度は地震による揺れの大きさを表します.
②マグニチュードは地震が発するエネルギーの大きさを表します.
③ガルは加速度を表します.
④カインは速度を表します.
最後になりましたが,熊本地震でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに,ご遺族の皆様にお悔やみ申し上げます.
【追記】2018年9月6日午前3時8分に発生した北海道での地震は1504ガルとのことです(出典:北海道震度6強:加速度1504ガル 防災科研が再発表 - 毎日新聞)。