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羽生選手のGOE低下は4回転ジャンプ失敗が起点だった:全日本フィギュア選手権羽生選手プロトコル雑感

当記事はプロモーションを含んでいます。

全日本選手権とGPファイナルのGOEを比較したら,なにが起点になってGOEが上がらなかったのが浮かび上がった.それは4回転ジャンプの失敗だった.

 

はじめに

全日本フィギュアスケート選手権の羽生結弦選手,SPとFSの合計得点は286.36点だった.これは,GPファイナルで叩きだした330.43点より44.07点も低い.

「羽生選手,SP・FSでジャンプ3回失敗したからね」.そう軽く考えていた.

 

しかし,プロトコルを眺めていたら,減点に大きく影響するのは「ジャンプ失敗によって基礎点が減るためだけではない」ことに気付いた.

では,減点にもっとも影響していたのは何だったのか?

 

それはGOEだ

 

表を見ると明白になる.

 

2015GPファイナルと全日本選手権の得点差の内訳
GOE差 -23.02(52.2%)
基礎点差 -13.7(31.1%)
演技構成点差 -4.35(9.9%)
減点 -3(6.8%)
合計 -44.07

 

表の順とは異なるが,先に基礎点,次にGOEについてみていく.

ジャンプに失敗しても基礎点は加点される

羽生選手の各演技要素についての基礎点をGPファイナルと全日本選手権で比較する.

2015GPファイナルと全日本選手権の基礎点          
演技順番 SP GPファイナル 全日本選手権   演技順番 FS GPファイナル 全日本選手権
1 4S 10.5 10.5   1 4S 10.5 10.5
2 4T+3T 14.6 14.6   2 4T 10.3 10.3
3 FCSp4 3.2 3.2   3 3F 5.3 5.3
4 3A 9.35 9.35   4 FCCoSp3p4 3.5 3.5
5 CSSp4 3 3   5 StSq4 3.3 3.3
6 StSq4 3.3 3.9   6 4T+3T 16.06 6.16
7 CCoSp3p4 3.5 3.5   7 3A+2T 10.78 6.49
  合計 47.45 48.05   8 3A+1Lo+3S 14.74 14.63
      4Sで転倒   9 3Lo 5.61 5.61
          10 3Lz 6.6 6.6
          11 FCSSp4 3 3
          12 ChSq1 2 2
          13 CCoSp3p4 3.5 3.5
              95.19 80.89
                4T+3Tで転倒
                3A+2Tで転倒

なお,各演技要素のレベルは最高とした.実際の結果はプロトコルで確認してほしい.

 

ノーミスで演技しきったGPファイナルと較べると,全日本でのミスは4つ(打ち消し線は1回目のジャンプで転倒したため,二つ目のジャンプができなかったことを示す).

SPで4回転サルコウ(転倒)
FSで4回転トウループ(転倒)+3回転トウループ(TV放送での予定ジャンプ構成では4回転トウループ+2回転トウループになっていたがここではGPファイナルに合わせる)
3回転アクセル(転倒)+2回転トウループ(TV放送での予定ジャンプ構成では3回転アクセル+3回転トウループになっていたがここではGPファイナルに合わせる)
3回転アクセル+1回転ループ(回転不足)+3回転サルコウ

注:4回転トウループ(転倒)+3回転トウループのため,4回転トウループが2回演技されたことになり,この場合は2回目の4回転トウループの基礎点が70%になる.


これらの失点で-14.3点だ.ただし,SPの4回転サルコウは回転不足をとられることなく基礎点がそのまま加点されている(減点diductionは1).

つまり,失敗したとしてもジャンプはそれなりに加点が見込めるのだ.ただし,連続ジャンプ1発目で転倒すると2発目の加点がなくなる.さらにはリピート判定をくらうと基礎点も減る.FSでの4回転トウループ+3回転トウループ及び3回転アクセル+2回転トウループでの減点が大きいのはこのためだ.

しかしながら,基礎点での-13.7点(SPのステップシークエンスはレベル4だったので,GPファイナルを0.6点上回った),演技構成点の-4.35diductionの-3だけなら,309.38点だ.300点自体に意味があるかどうかはともかく,GOEの減点幅が9点以内ならNHK杯,GPファイナルに続いての300点超えだった(そうだったら,『羽生,3大会連続300点超え』とかの新聞見出しが満開だったろうに).

 

 

4回転ジャンプに失敗するとGOEにひびく

 上述した通り,GPファイナルにくらべるとGOEは-23.02.GPファイナルからの減点-44.07点の52.2%を占める.GOE減点の影響がもっとも大きかったことがわかる.

 

羽生選手のGPファイナルの演技の完成度が非常に高かったことは拙記事でも書いた通りである.それが,ことGOEのみについて見てみると全日本選手権37.4%(17.07/45.6)と,GPファイナル87.9%(40.09/45.6)よりかなり落ちた.



では,どの演技要素のGOE減がひびいたのだろう?

それは,思った通り.

ジャンプ,特に4回転ジャンプ失敗の影響は大きい.3回転ジャンプなら最低のGOE判定(-3)でも減点は-2.1点(3回転アクセルは-3 点).それが4回転ジャンプになると-4点になる.

羽生選手FS後半冒頭4回転トウループの連続ジャンプGOEは-4.せっかく積み上げた基礎点からその分を引かれてしまうのだ.羽生選手は転倒から立ち上がったとき 「ふ〜」と一息ついていたが胸中はどうだったのだろうか?

 

2015GPファイナルと全日本選手権のGOE          
演技順番 SP GPファイナル 全日本選手権   演技順番 FS GPファイナル 全日本選手権
1 4S 3 -3.31   1 4S 3 3
2 4T+3T 3 3   2 4T 3 3
3 FCSp4 1.29 1.21   3 3F 1.9 2.1
4 3A 2.71 2.29   4 FCCoSp3p4 1.14 1.14
5 CSSp4 1.43 1.36   5 StSq4 1.36 1.43
6 StSq4 1.5 1.9   6 4T+3T 2 -4
7 CCoSp3p4 1.43 1.36   7 3A+2T 3 -2.86
  合計 14.36 7.81   8 3A+1Lo+3S 2.43 0.14
      4Sで転倒   9 3Lo 1.5 -0.4
          10 3Lz 1.8 1.5
          11 FCSSp4 1.21 1
          12 ChSq1 2.1 2
          13 CCoSp3p4 1.29 1.21
              25.73 9.26
                4T+3Tで転倒
                3A+2Tで転倒

この表についても各演技要素のレベルは最高とした.実際の結果はプロトコルで確認してほしい.

 

GOEマイナスになった3つのジャンプですでに-10.17だ.やはりこれは大きかった.しかし,それだけじゃなかった.

ジャンプに失敗すると他の要素のGOEにもひびく

SP・FSの合計20ある演技要素のうち,全日本選手権でのGOEがGPファイナルと同じか上回っていたのは,実は7つしかない.ほぼ2倍の13の要素でGOEが下がっていたのだ.

全日本選手権のSPのGOEはGPファイナルのほぼ半分だった.冒頭の4回転サルコウの失敗が尾をひいたものと考えられる.

一方,FS3番目〜5番目までの3要素のGOEはGPファイナルを上回っていた.冒頭2つの4回転ジャンプも成功させている.改めて録画を見直してみると,FS演技前半までは調子良かったのだ.誰もが安心しきって演技を見ていたに違いない.


暗転したのは演技後半の連続ジャンプ(4回転トウループ)の転倒からだ.次の3回転アクセルまでも転倒した.アナウンサーが思わず「珍しい失敗です」と言ったほどだ)

演技後半冒頭の4連続ジャンプ失敗以後,すべての要素GOEは,コレオシークエンスさえもがGPファイナルを下回った.

 


これらふたつの下線部で示した事実から導かれる仮説はこうだ.



「4回転ジャンプのミスは,それ以後すべての演技の精度に影響する」


羽生選手のGOE低下は4回転ジャンプ失敗が起点だったのだ.

 

おわりに

もちろん,FS演技後半のGOEの伸び悩みはスタミナ切れのせいかもしれない.4回転ジャンプの失敗は過密スケジュールによる調整不足がもたらしたものかもしれない.

 

無論,次の世界選手権でこの仮説を検証する気など毛頭無い.

全日本選手権での収穫は,今や一か八かの大技ではなく世界標準となった4回転ジャンプのみならず3回転アクセルであっても羽生選手が失敗しうることを知ったことにある. "Of course, he is always a human being."


そして,もし羽生選手が2016年世界選手権で4回転ジャンプに失敗しても,他の演技要素への影響を最小限にとどめる,あるいはそんなことは微塵も見せない強い姿を見せつけて欲しい.筆者の願いはそれだけだ.

 

ではまた!

 

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