330.43点がすごいのはなぜか?
羽生結弦選手がフィギュアスケートGPファイナルで3連覇を果たしました.
その得点は330.43点.
メディアは
「世界最高点を更新」
「前人未踏330点超え」
などと伝えています.
でも,330.43点のどこがどうすごいのか,そこには触れていません.
メディアが「ことの本質」を伝えていないのを歯がゆく思います.
330.43点という数字は演技構成点の係数で変わります.女子シングルの係数を当てはめれば330.43点は300.89点になります.決して点数それ自体に意味があるわけじゃありません.前人未踏の点数が一人歩きしているだけなのです.
だから羽生選手がなしとげたことの本質はそこにはありません.
では何が本質なのでしょう?
プロトコル
その話をする前に羽生選手のプロトコル(FS)を見ておきましょう.
羽生選手の演技の基礎点(Base Value)は満点が95.79点.ここから減点されたのはステップシークエンスがレベル3になったのみ.95.19点はほぼ完璧と言えるでしょう.
出来映え点(GOE)の満点は30点.羽生選手は25.53点を獲得.
演技構成点の満点は各項目10点に係数2を乗じたもので満点は100点.羽生選手は98.56点をマークしました.
どれもこれも満点に近い得点なのです.
ただ満点がほしいだけなら難易度を下げればすみます.でも羽生選手はそんなことはしていません.
今,自分が演技可能な最高難易の構成を組み,そして挑み,これまでにありえない完成度で演技をなしとげたのです.
この記事を読んでいるあなたがフィギュアファンだったらぜひISUのHPを参照して他のGPシリーズ出場選手の記録と比較してください.そうすれば羽生選手のすごさの本質が見えてきます.
と言ってもそうする方はほとんどいないでしょう.なので次項にGPファイナル出場者の満点,得点,そして完成度を記載しました.
本質は高難度プログラムと演技完成度
羽生選手のすごさの本質は,羽生選手が選択したプログラムの難易度の高さと羽生選手が滑りきった演技の完成度の高さにあります.
羽生選手は初めから330点を超える高難度のプログラムを組んでいました.
今朝のシューイチ!のMCが「羽生選手の記録はどこまで伸びるのか」みたいに言ってましたが,今シーズンのプログラムを一切の減点無しに演じきったら339.44点が満点となります.これが得点の上限です.340点にもそれ以上にもなりません.まずはここを理解しましょう.
しかしながら,330点超のプログラムを組んだのは羽生選手だけではありません.GPファイナルに出場した6選手の満点=上限点と実際の得点,そして完成度をみて下さい.
ちなみに満点=上限点は,予定演技要素の基礎点から算出可能ですし,得点はプロトコルに記載されています.ここでは得点/満点=得点率を完成度とします.
順位 | 選手名 | 満点=上限値 | 得点 | 完成度(%) |
---|---|---|---|---|
1 | 羽生結弦 | |||
2 | ハビエル・フェルナンデス | |||
3 | 宇野昌磨 | |||
4 | パトリック・チャン | |||
5 | ボーヤン・ジン | |||
6 | 村上大介 | |||
もし5位のボーヤン・ジン選手が満点を叩き出したら351.53点です.彼は羽生選手以上の高難度プログラムを組んでおり,羽生選手と同じ完成度の演技をしていたら得点は342.23点になります.
でも彼の完成度は74.94%とパトリック・チャン選手を下回りました.
とはいえ,ジン選手は現時点で最高難度のプログラムにチャレンジしたからこそ,順位はチャン選手を上回ったのです(←と書いてしまいましたが,結果はジン選手とチャン選手は同点,順位はチャン選手4位,ジン選手5位でしたので表を訂正しました.またフェルナンデス選手の名前を誤記載していたので訂正しました).
2015/16シーズンから複数の4回転ジャンプを含む演技が当たり前になりました.どの選手も高難度プログラムにチャレンジしなければ勝てなくなったのです.
自分にできる高難度プログラムを組むことは必然です.しかし,GPファイナルの結果が如実に語るように,高難度プログラムを高い完成度で演技しきることはとても難しい.羽生選手はそれをやってのけたのです.
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高難度プログラムと高い完成度こそが王者への道
今回,高難度プログラムを高い完成度で演技できる遂行力を揃えた3人がメダルを獲りました.村上大介選手も宇野昌磨選手も非常にチャレンジングな高難度プログラムを組みました.でも村上選手の完成度は残念ながら高いとはいえず,一方で金,銀,銅のメダルを手中にした羽生選手,フェルナンデス選手,そして宇野選手の完成度はいずれも85%以上でした.
しかも羽生選手の完成度はNHK杯での94.98%をも超え,ファイナルでの完成度は97.3%にまで高まりました.羽生選手は,高難度のプログラムを,「自分自身をも超える完成度の高い演技」で滑りきり,頂点の座をつかみとったのです.
GPファイナルで羽生選手が勝ちたかったのは,ハビエルでもチャンでもジンでも昌磨でも大介なく,NHK杯の羽生結弦だったに違いない,筆者はそう思ってます.そして,彼は勝ちました.絶対王者として.
【追記】2016年9月15日
羽生選手が4回転ループ成功の映像がニュースに流れました.もうすぐ今季(2016/17シーズン)の試合も始まります.楽しみです.
【追記】2016年11月26日
羽生選手,NHK杯連覇おめでとうございます!
ツイッターTLで流れてきた羽生選手のプロトコルざっと眺めた.これは伸びしろがまだまだある.というか,まだまだこんなものじゃないはず.GPファイナルが楽しみです.
— おまきざる@自由研究 (@capuchinyou2) 2016年11月26日
【追記】2018年2月28日
羽生選手,オリンピック二連覇おめでとうございます!