緊急地震速報の前に地震が起きた
昨日(2016年4月19日)のNHK情報番組『あさイチ』のメインテーマは「直下型地震の恐怖」がメインテーマでした.もちろん熊本地震のことです.
直下型地震の恐怖|NHK あさイチ
番組を途中から見始めたところ,夜に取材中の映像で驚いたシーンがありました.
今では普通に耳にする「緊急地震速報」の音がケータイ・スマホから鳴り響かないうちに,大きな余震に見舞われていたのです.
いったい何のための緊急地震速報なのか?と疑問に思いましたが,震源が真下に位置するような直下型地震の場合,P波が届いてから次のS波が届く前に地震の揺れが生じるので速報が間に合わない,と説明していました.
その場では「そういえばP波とS波って聞いたことあるな.そうか,P波のあとのS波が間に合わないんだ」と納得したような雰囲気になりましたが,考えてみたら
「P波のP,S波のSは何?」ということを全く説明できないことに気がつきました.
地震関連のエントリの連投で気が引けるのですが,今回はP波,S波と緊急地震速報の関係について,自分が理解出来た範囲で簡潔にまとめてみました.
地震と地震波
地震とは,地下の岩盤に圧力が加わってひずみがたまり,持ちこたえられなくなったとき岩盤が割れ,このときに生じる振動(揺れ)のことです.(地震について)
熊本地震は大陸プレート(内陸地殻)内地震とされています.
九州が乗っかっているのはユーラシアプレートと呼ばれている大陸プレートです.この大陸プレートの岩盤内部に力が加わっているため,ゆがみやひずみが溜まります.
溜まった力に岩盤が耐えきれなくなると「岩盤が破壊される=地震が発生」してエネルギーが放出されます.このときのエネルギーの大きさの単位がマグニチュードです.
放出されたエネルギーは「波」になって同心円状に広がって地中を伝わります.
この波が「地震波」です.地震波が地表に達すると地面を揺らし,ひいては建物を揺らします(出典:地震はどのように伝わるの?).
P波とS波
地震波 - Wikipediaによると地震波にはP波,S波,T波,ほかにもいくつかあるようですが,ここではP波とS波のみを取りあげます.
◆P波のPはPrimary(第一の),という意味です(P波のPは他の意味も記載されてましたが,いくつかのWEBページではPrimaryになってましたので割愛).P波は第一の波なのです.
◆S波のSはSecondary(第二の)という意味なので,S波は第二の波になります.
第一・第二とまるで順番のようになっていますが,それもそのはず.
伝わる速度がそれぞれ違います.地表付近での速度を比べるとその違いは一目瞭然.
P波:毎秒6〜7km
S波:毎秒3.5〜4km
第一の波であるP波のほうが速いです.第一の波と呼ばれる通り地表にいち速く伝わるのです.
P波とS波は揺れ方が違う
P波は「縦波」と呼ばれています.「あ,地震だ」と思ったとき,たいてい小刻みな縦揺れ(初期微動)を感じませんか?これはP波がもたらしたものです.
一方,S波は「横波」と呼ばれています.先に地表に到達したP波による小刻みな縦揺れの次,ユサユサと大きな横揺れがやってきます.こちらがS波による震動です.
P波とS波のまとめは次の表のようになります.
(地震についてより引用)
1つの地震が地中で発生したとき,P波とS波はそれぞれが「異なる地震の振動」を「異なる速度」で伝えるのです.
緊急地震速報のしくみ
緊急地震速報のしくみは次の通りです.
緊急地震速報は,震源に近い地震計でP波を検知し,少数のデータから震源,マグニチュードを推定し,各地にS波が到達する前に震度を予測しようとするものである.
(出典:明田川ら2010,験震時報73巻pp.123-134のうちp.124より,一部改変;http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/kenshin/vol73p123.pdf).
図でみてみましょう.
肝心なのは,震源の近くに設置されている地震計で地震波をキャッチすることです.もちろん,このときキャッチするのはP波です.
地震計がP波を検知した後,S波が到達しますが,P波とS波には伝わる速度に差があります.
緊急地震速報は,P波の検知後,S波によって大きな横揺れが生じるまでにわずかな時間,数秒から十数秒の間にどれくらいの大きさの地震が襲ってくるのかを予想して
「ピロンポロ〜ン♪ ピロンポロ〜ン♪」または
「ギュッギュッギュ ギュッギュッギュ」
という警報音を鳴らしてくれるのです.
なお,緊急地震速報(警報)を発表する条件は,「地震波が2点以上の地震観測点で観測され,最大震度が5弱以上と予想された場合」,また,震度6弱以上が予想される場合は特別警報(地震特別警報)に位置づけるとのことです(気象庁|緊急地震速報|緊急地震速報(警報)及び(予報)について).
直下型地震だと警報を出す前にS波が地表に到達する
しかしながら,震源の近くにいる場合,特に震源の真上にいるようなときにはP波を検知してからほとんど時間差がないままS波が地表に到達してしまいます.
このため,直下型地震のときは,ケータイやスマホから「ギュッギュッギュ ギュッギュッギュ」と緊急地震速報が鳴り響く前に地震が発生してしまうことがあるのです.
調べてみて,ようやく合点がいきました.
熊本地震の最初の地震(4月14日21時26分頃)では,緊急地震速報とタイムラグがほとんどない状態で地震が起こったそうです.
現在の科学はまだ万能ではありません.地震の予知だって不可能なままです.
でも緊急地震速報があるおかげで,地震の揺れが始まる前に備えることができるケースは多いと思います.
関連記事
覚えておきたい緊急時・停電時・災害時の公衆電話の使い方
熊本地震と東北地方太平洋沖地震等を比べてみてわかったこと【2016年4月18日-21日時点】
覚えておきたい災害用伝言ダイヤル171の使い方
覚えておきたい地震の豆知識【加速度ガルと速度カイン】
【追記】記事に書いたことを実体験しました.2016年5月16日21時25分頃,茨城県南部を震源とする地震(マグニチュード5.6,震源の深さ約40km)により,茨城県北部で震度5弱が観測されました.ちょうど子どもがラジオで基礎英語を聴いていたのですが,揺れが起きてから緊急地震速報が鳴りました.