おまきざるの自由研究

マネーと本、ワイン、お弁当。たまにサルとサイエンス

NHK『大アマゾン緑の魔境に幻の巨大ザルを追う』に登場したサルたちを解説する

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はじめに

2016年6月12日に放映された『NHKスペシャル 大アマゾン第3集 緑の魔境に幻の巨大ザルを追う』に登場した「新世界ザル(野生状態で中南米に生息しているサルのこと)」について簡単に解説します. 

※当記事執筆には『サルの百科』が大変参考になりました.

 

 

アカホエザル,フサオマキザル,ケナガクモザルなどの詳細な生態については,野生の新世界ザル研究第一人者である伊沢紘生著『新世界ザル』が最新の書籍です(執筆時).ただ,この本には引用文献等がいっさいありません(読んで確かめましたが、「え・・・??」というのが第一印象で、専門書としてそれでいいのか甚だ疑問でしたが、この著者ならそれもありかもです).専門書というよりは著者の日記というか,フィールドノートを書き起こしたという感じですね.その分,筆致はものすごく生き生きとしています.興味がある方はご一読ください.上下巻ありますが,上巻だけ貼っておきます(引用文献が記載されてない以上、学術的にはいかがなものかと思いますので上下巻とも目を通しましたが私は買ってません).

 


なお,体重および頭胴長は『サルの百科』に記載されているものを主に引用しました.

フタイロタマリン,クチヒゲタマリン,ミダスタマリンについてはフタイロタマリンをご参照ください.

ピグミーマーモセット 

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(画像出典:http://imgcc.naver.jp/kaze/mission/USER/20120829/10/1200310/63/275x346x5e3d5fe7e4c7316ea8959dfb.jpg

ピグミーマーモセットは体重約125g,頭胴長約 14cm,尾長約20cm.
社会構造は一夫一妻型.子ども達を含め2〜9頭(平均5~6頭)の群れを形成.

ナレーションでは「昆虫や木の樹液が好物」としか触れられずがっかりしましたが,ピグミーマーモセットは人以外では唯一「労働」するサルと言われてます.あらかじめ樹液の出る木に歯で穴を穿ち,時間が経って樹液が滲みだしたあとで樹液を食べに戻ってきます.将来,と言っても1日の間での話ではありますが,数時間先の将来を見越して行動するのです.これはヒト以外の霊長類では非常に珍しいことです(『サル学の現在』pp.468-469).『サル学の現在』(立花隆著)1991年発行.今となっては古書ですが一般人が読めていろんなサルがそれなりに網羅されている本はほんとに少ないのでとっても貴重なのです.

ちなみに真猿類最少のサルでもあります(「真猿類」って?という方はググってください).

フタイロタマリン 

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(出典:http://i.gzn.jp/img/2007/05/24/10animals_may_go_extinct/368386751_af4015248a_o.jpg


フタイロタマリンは平均体重428g,頭胴長20.8-28.3cm,尾長33.5-42.0cm(Saguinus bicolor (Brazilian Bare-faced Tamarin, Pied Bare-faced Tamarin, Pied Bare-face Tamarin, Pied Tamarin)).主な食物は昆虫と果実.

マーモセットとタマリンは新世界ザルの中でもより小型のサルのグループです.タマリンは2-9頭(平均5-6頭)の群れを作ります.群れの構成はまちまちで,タマリンの種によっては一夫一妻型,複雄複雌型(性的に成熟した繁殖可能な雄と雌が一つの群れ内に複数いるタイプ),複雄単雌型(新世界ザルでは,性的に成熟した繁殖可能な雄と雌が一つの群れ内に複数いるが,実際に繁殖する雌が1頭のみのタイプ)もあります(『サルの百科』pp.68-69).

フタイロタマリンの群れの頭数は,41群の観察から2-11頭(平均4.8頭).群れに複数の雌がいた場合,1位雌のみが繁殖するとのことです(Saguinus bicolor (Brazilian Bare-faced Tamarin, Pied Bare-faced Tamarin, Pied Bare-face Tamarin, Pied Tamarin)).

フタイロタマリンはマナウス近郊のごく限られたエリアにしか生息していないようです(初めてマナウスに行ったときは熱帯林の緑の絨毯に突如出現したマナウスの巨大な街並みに喫驚しました). 

クロリスザル

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(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/File:Saimiri_ustus.jpg

前述した通り,新世界ザルは①より小型のマーモセットやタマリンと,②より大型のオマキザルの仲間に分けられています.リスザルはオマキザルの仲間のなかで最も小さいサルで,体重は700g-1kgちょっとです.クロリスザルはオスの平均体重約910g(620g-1200g),メスのは約795g(710g-880g),頭胴長等は不明です.近縁種のコモンリスザルの頭胴長は約32cm,尾長約41cm.主要な食物は果実と昆虫.

生息域はコモンリスザルよりも狭く,アマゾン川の南側に限られているようです(分布図を参照してください:Bare-eared squirrel monkey - Wikipedia, the free encyclopedia).

リスザルは新世界ザルの中で大きな群れを作ります.20頭以上,大きいものでは50頭もしくは70頭にものぼる複雄複雌型の群れを作る(『サルの百科』p.101)とのことですが,オスとメスが発情期だけまざり合うとも書かれています(『サル学の現在』p.456).動物園でよく見かけるのはコモンリスザルですが,伊豆半島では人が持ち込んだリスザルが侵入しているようです(リスザル / 国立環境研究所 侵入生物DB).伊豆シャボテン公園から逃げた個体でしょうか?

キンガオサキ

キンガオサキは『サルの百科』に載っていません.キンガオサキの群れの頭数は6-7頭(1群)という報告と,平均2.6頭(3群),どちらも成体オスとメスの両方を含むとのことです(Evolutionary Biology and Conservation of Titis, Sakis and Uacaris - Google ブックス).近縁種のシロガオサキは一夫一妻型の群れを作ります.キンガオサキもそうかもしれませんが報告数が少ないのでなんとも言えません.未知の巨大サル()なんかを探すよりキンガオサキの映像をもっと撮影してほしいものです.

シロガオサキで代用すると,体重はオス約1.6kg,メス約1.4kg,頭胴長はオス約41cm,メス約35cm,尾長はオス約40cm,メス約38cm.主要な食物は種子と果実.

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(出典:http://www.nhk.or.jp/special/amazon/series3/monkey/#spiderMonkey

シロガオオマキザル

『サルの百科』には近縁種のフサオマキザルのデータしかないので,それを記載しておきます.体重はオス約4kg,メス約3kg,頭胴長はオス約44cm,メス約39cm,尾長はオス約43cm,メス約42cm(『サルの百科』p.93).だいたい8-15頭からなる複雄複雌型の群れとつくります.主な食物は果実ですが,小動物や鳥の卵も食べるとのことです(White-fronted capuchin - Wikipedia, the free encyclopedia).

オマキザルの仲間は非常に知的な行動をすることが知られています.チンパンジーのように石や木を台座にしてそこに堅いヤシの実を置き,上から石を振り落としてヤシの実を割って中身を食べるというハンマー使用行動が観察されているほか(NHK『ダーウインが来た!』で放送済み),竹の節に中にいるカエルの存在を聞き耳を立てて探し当てて食べたり,人の介護をするよう訓練を受けているものもいます.映画でもおなじみですが,有名どころでは『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ナイト・ミュージアム』,マイナー作品では『アウトブレイク』にアフリカミドリザル(サバンナモンキー)役で登場しています.

『ナイト・ミュージアム』に登場する「剥製」オマキザル役は「デクスター」と名付けられた"俳優".映画パンフレットにはノドジロオマキザルと書かれていましたが,私にはフサオマキザルにしか見えません.どっちなんでしょう?

完全な野生状態のものではありませんが,シロガオオマキザルの道具使用の様子はこちらをご覧下さい.


Tool use in white-fronted capuchin monkeys (Cebus albifrons)

チンパンジー

チンパンジーは新世界ザルじゃないので割愛.

番組内で使用された映像はタンザニア・マハレ山塊国立公園のチンパンジー(NHK『地球ふしぎ大自然』で放送済み)と思われます.【追記】『地球ふしぎ大自然』ではなく,その前番組だった『生きもの地球紀行』(1994年9月5日放送)でした.

ジャガー

こっちのほうが巨大ザルより良い映像かもしれないと思いました.滅多にお目にかかれない貴重な映像でした.南米滞在時に足跡には遭遇、あとクモザルが樹上から地上に向かって音声で威嚇してるシーンに遭遇しましたが,もしかしたらクモザルの真下にジャガーがいたのかもしれません.

アカホエザル

アカホエザルはオスの体重約6.5kg,メス約4.5kg,オスの頭胴長約58cm,メス約53cm,オスの尾長約61cm,メス約60cm.群れの頭数は8~9頭,最大でも16頭.単雄複雌型が一般的だけど2頭以上のオスがいることもあるそうです(『サルの百科』p.75).主な食物は木の葉と果実.

ホエザルは喉に「舌骨」を持ち,音声を共鳴・増幅させ,その名の通り大きな声でほえます.5kmはとどくような大きさの声で「その真下にいたら話もできないほど(『サル学の現在』,p.453)」だそうです(真上で鳴いてたのを聞いたときはそこまで大きいとは思いませんでしたが).

ちなみに新世界ザルの大きな特徴の一つはその尾にあります.尾の先の内側(背中側ではないほう)には毛がない部分があります.そこには尾紋とよばれる指紋・掌紋のような紋様があります.新世界ザルの中のオマキザルの仲間の多くの種では,尾紋を使って尾を枝に巻き付けてぶらさがったり移動の補助に用いたりします.

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(出典:http://www.nhk.or.jp/special/amazon/series3/monkey/#spiderMonkey

シロウアカリ

シロウアカリは体重約4kg,頭胴長約55cm,尾長約15.5cm.けったいなサルが多いと言われる新世界ザルの中でも極めてユニークです.ウアカリには頭がはげ上がったハゲウアカリと黒い毛がふさふさ生えてるクロアタマウアカリがいます.ハゲの理由については,健康状態の指標および性的もしくは行動的状態の指標ではないか,と言っている論文があります.全文が読めますので興味ある方はぜひどうぞ(Proximate causes of the red face of the bald uakari monkey (Cacajao calvus) | Open Science).

5〜30頭の群れや,ときには100頭以上の集合もあるとのこと(『サルの百科』p.86)ですが,報告によってまちまちなようです.集団の頭数にバリエーションがみられるのはウアカリが離合集散型の社会構造をもっているからではないかという研究者と,いやそんなのはみられないという研究者もいて(Primate Factsheets: Uakari (Cacajao) Behavior),その社会のありようの正体はまだ謎に包まれているようです.

食性は果実・つぼみや種子・葉・昆虫や小動物とされています(『サルの百科』p.86).まだ熟していない固い種子をよく食べると何かで聞いたような・・・(「堅いブラジルナッツも割ることができる」そうです).

番組中でも固い果実を食べられることを紹介していました.

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(出典:http://www.nhk.or.jp/special/amazon/series3/monkey/#spiderMonkey

固い果実・種子はほかの新世界ザルがあまり好まないようですので,ウアカリは食性において独自のニッチ(生態的地位)を獲得した種とも言えそうです.

ハイイロウーリーモンキー

これまた『サルの百科』に記載がありません.フンボルトウーリーモンキーで代用します.体重はオスが約6.5kg,メスが約5.5kg,頭胴長はオスが約53cm,メスが約49cm,尾長はオスが約67cm,メスが約66cm.主食は果実と葉.

ハイイロウーリーモンキーはこのページの動画,1分12秒あたりから登場します.

 

NHKスペシャル|大アマゾン 最後の秘境|第3集 緑の魔境に幻の巨大ザルを追う|緑の魔境に潜むサル達



ウーリーモンキーは父系と言ってその群れで産まれたオスは生涯群れから移出しないと考えられています(クモザルとチンパンジーもそうです).ハイイロウーリーモンキーもそうなのかもしれません.フンボルトウーリーモンキーは複雄複雌型で最大70頭の群れをつくるとのことです(『サルの百科』,p.96).

クロクモザル(Ateles paniscus:Red-faced spider monkey)

オスの頭胴長は約55.7cm,メスは約55.2cm,オスの体重は約9.1kg,メスは約8.4kg,30頭ほどの群れを作るとのことです(Red-faced spider monkey - Wikipedia, the free encyclopedia).主食は果実.一応,番組のメインを張っていたように見えたので,学名と英名を付記しておきました.

まさか,これが未知の巨大ザルとは・・・

クモザルの社会はチンパンジーにとても似ています.

ウーリーモンキー,クモザルそして大型類人猿のチンパンジーはともに父系ですが,チンパンジーとクモザルは群れのメンバーが集まったり離れたりという離合集散を日常的に繰り返しています.コスタリカにおけるチュウベイクモザルの研究では,一つの群れがいくつかに別れて作る小集団の頭数が平均4.5頭とのことです(『サルの百科』,p.82).チンパンジーの集団における離合集散ぶりは,『サル学の現在』p.121を参照するとよいかもしれません.

クモザルは新世界ザルの中では大型のサルではあります.中でもクロクモザルはチュウベイクモザル(体重約7.6kg:『サルの百科』p.83)よりは大型といえるかもしれません.しかし,もっともっと大型のクモザル,もしくはクモザルじゃないもっと大きいサルがいる・・・のか?

なお,クモザルは「腕わたり」と呼ばれる,「4本の指をフックのように枝だに素早く引っかける」(246回「密林の軽業師 クモザル」│ダーウィンが来た!生きもの新伝説)行動によって樹上を移動します.腕わたりに親指は必要ありません.このためかクモザルは手の親指が非常に短いです(ものすごく大事).

ヒゲサキおよび新種のサキ

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(出典:http://pds.exblog.jp/pds/1/200807/28/62/e0092462_23475675.jpg

ヒゲサキはオスの体重約2.9kg,メス約2.6kg,オスの頭胴長約42cm,メス約37cm,オスの尾長約37cm,メス約39cm.群れの頭数 は8~30頭,最大でも16頭.主な食物はまだ熟していない果実に含まれる若い種子,群れは複雄複雌型ですが採食時にはオスメスのペアとその子ども達からなる小さな集団に別れるという(『サルの百科』p.94-95),離合集散型のシステムを持っているとのことです(Primate Factsheets: Bearded saki (Chiropotes) Behavior).

番組で紹介されていた新種のサキの学名はPithecia pissinatti.頭胴長は41-55cm,尾長は42-52cmとのことです(Five New Species of Saki Monkeys Discovered | Biology | Sci-News.com).わかったのはこれぐらいでした.

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(出典:http://sve.2chan.net/dec/50/src/1465735710841.jpg

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モノスおよび雑感 

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(出典:http://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=06158

モノスについては,「これ,どうみてもクモザルじゃん.前肢の親指短いし」と思いながら見てたら案の定そうでした.身も蓋もない結末です.ペットのクモザル.しかも尾は切断していたとのこと.

そんなのを根拠に巨大ザルを探すって・・・それでいいのかNHK?

NHKスペシャル|大アマゾン 最後の秘境|第3集 緑の魔境に幻の巨大ザルを追う

このページに動画が2つあります.上のほうの動画に『NHK探検隊』と書かれていました・・・

 

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制作スタッフ自ら『さながら○○○探検隊』と呼んでいることが象徴していますが,とにかく未知の巨大ザルを探す「珍獣ハンターに徹しきった1本」だなあ,というのが正直な感想です.


番組では浸水林の説明もなければ新世界ザルの説明もないという実に不親切な仕様.

しかしながらカメラマンの一人は関野吉晴のグレートジャーニーを担当,もう一人はペルーでアカウアカリを探しまわったりアフリカでチンパンジーを撮影するなど霊長類の撮影経験が豊富(以前、フィールドでたまたまお会いしたときに缶ビールをいただきました、ありがとうございました).映像そのものは良く撮ったなあというものが多かったです.

すでに述べましたがジャガーなんて狙ってもそう簡単に撮れないでしょうに,偶然とはいえ"引き"の強さを感じました.

なおピグミーマーモセットやフタイロタマリンなどの小さくて敏捷なサルたちがとても鮮明に撮影できてる(森林で撮影するのはよほど条件が揃わないと困難すぎる)のでこれらはおそらくマナウスの国立アマゾン研究所(INPA)で保護・飼育されてる個体を撮影したものと思われます(違ってたら申し訳ありませんが、私はINPAに行ったことありますのでまわりが似てたんですよね).

何はともあれ,ここまでやったなら予算の続く限り未知のサルを追ってほしいです(クモザルだけど).

今回の大アマゾンの撮影地の中盤に,マミラウア自然保護区が登場しました.ここは雨季になると森が水浸しになる浸水林(flooded forest).でも,番組では「マミラワ自然保護区」としていたのが解せませんでした.NHKで以前放映した番組でも「マミラウア」と表記していました.また,2001年2月に放映された『素敵な宇宙船地球号』という番組でも「マミラウア」とされていました.今回,NHKがなぜ「マミラワ」にしたのか,非常に疑問に思っています(ここは大変なこともありましたが今となっては良い思い出です).

ではまた!

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