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キラキラネームの言語的特徴とは何か?

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キラキラネームとは

このところ,はてなブックマーク界隈で「キラキラネーム」に関するエントリーをいくつか目にした.

そのうちの一つ,キラキラネームの何が悪いの?では名前の例として以下が挙げられていた.

  • 錦織(にしきおり・にしこり)
  • 内海(うつみ・うちうみ)
  • 剛(ごう・つよし)
  • 神戸(こうべ・かんべ・じんご)

しかしながら,これらはキラキラネームとは判定されないだろう(そもそも名字はキラキラネームじゃない)

そう判断した理由は筆者の個人的見解によるものではない.「キラキラネームの言語的特徴の究明」を主題にした論文がその根拠だ.

以下,ざっと紹介する.

キラキラネームについての論文

山西他(2016) 人名の言語的特徴の分析に基づくキラキラネーム判定[1]というキラキラネームを対象にした論文がある.日本感性工学会なる学会は初耳だったが,その学会の会誌に掲載されている.

日本の役所に出生届を提出したことがある方は経験したことと思うが,担当職員は提出された名前について辞書やPC等を参照し,用いてよい漢字なのかどうかを判別する.

それは,この論文冒頭の「はじめに」にも書かれている通り戸籍法第50条「子の名は常用平易な文字を用いなければならない.」第50条2「常用平易な文字の範囲は,法務省令でこれを定める」に規程されているからだ.

したがって,キラキラネームであろうと戸籍法第50条を逸脱する漢字は使えない.あくまで常用平易な文字の組み合わせ・そしてその読みが子の名をキラキラネームにしているのだ.

ではキラキラネームの言語的特徴とは何なのだろうか?

キラキラネームの言語的特徴

キラキラネームの言語的特徴は次の8つとされている(論文3.3 キラキラネームの言語的特徴および表3より,黒太字は引用箇所).なお,いくつかの名前を例示するけれど,もしこのエントリーを読んでいる方で自分の名前を一致する方がいたとしてもあくまで例として用いられているものなので気を悪くしないでほしい.

(1)漢字の個数

例えば晋三,稲造のように漢字1文字に対し2音の読みを充てるのではなく,「華美音(けびん:男)」,「牙琥翔(がくと:男)」などキラキラネームでは漢字1文字に対して,1音,または1音以下のみの読み方を充てるものが多い

これは次に特徴にも関係する.

(2)読みの発音数

「大賀寿(たいがーす:男)」「大勇明育(おさむのすけ:男)」』など読みの発音数が多い.これは論文では(1)のような読みのあてが1文字1音もしくはそれ以下なこととも関連する.【筆者注:だが読みの発音数が多い(例えば純一郎)名前はよく見かけるのでこの点については疑問の余地があるだろう.】

(3)同一漢字の複数回使用

「笑笑(にこにこ):女」「七七七(ななみ):女」などキラキラネームには同一の漢字が複数回用いられていることが多い

(4)異体漢字の使用

異体字とは例えば「崎」に帯する「﨑」「嵜」のように,「同一の文字観念を有する複数の字体」字体 - Wikipedia)のことである.例として「愛來(あいら:女)」の「來」,「愛凜(あめり:女)」の「凜」があげられている.【筆者注:これについても疑問の余地はあるだろう.】

◆ここまでみた限りでもけっこうなものだが、キラキラネームの本領発揮はここからだ.

(5)漢字の音訓読みにない読み方の使用

キラキラネームの読みは漢字の音訓読みに一致しないものが多い.例としては「弓(あむろ:女)」の「弓」1文字に対しての「あむろ」や「希音(ねおん:女)」の「希」に「ね」という音を充てたものなどがあった.この理由として漢字の読みではなく漢字から連想される音を読みとして与えることを指摘している.

このタイプの名前を正しく読む事は至難の業というより不可能だ.読み方が日頃接する漢字のレパートリーに含まれないからだ.論文p.32表1にはキラキラネームと判定された名前が挙げられている.読めるだろうか?
「舞桜(女)」「依真理(女)」「美広心(女)」「陽音(女)」「騎矢(男)」

 

答えは順に「わるつ」「よりこ」「よおこ」「りずむ」「ないと」である.私はどれもこれも読めなかった.

(6)漢字の総画数

特徴(1)で示したように漢字の個数が多かったり,特徴(4)に示したように異体字の使用が多かったりするため,結果として漢字の総画数は多くなる.論文p.35表5から一つ引用する:「鳳凰翔(おうが:男)」

(7)漢字と性別の不一致

男性に与えた人名であるにも関わらず,女性の名前として多用される漢字が使われていることがある.これには逆のパターンもあるようだ.例示されていたのは次の二つ.
「真理菜(まりな:男)」「麟平(りんぺい:女)」

(8)読み方がカタカナ単語として存在

それ自体がカタカナの単語として存在することが多い.「夢泡(むーあ:女)」は英単語「moor」に相当し,「寿江琉(じゅえる:女)」は英単語「jewel」に相当する

◆蛇足だが,論文はこれらキラキラネームの言語的特徴を数値化し,次の式で表現していた.一応あげておく.

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数式の詳細を紹介することが本エントリーの目的ではないので,興味ある方は論文を参照してほしい.

この論文は著者のうち一人が調査者としてキラキラネーム候補をWebサイト「DQNネーム」[2]に掲載されていた人名一覧から200件抽出した,とある.一名による作業なのでなんらかのバイアスがかかっている可能性を指摘せざるを得ないけれど,少なくともキラキラネームとしてここまで挙げた名前を一般名と呼ぶことは正直厳しい

ところでキラキラネームと言っても多数ある.その言語的特徴を仮に一言で表すならこうかもしれない.名前として用いる漢字の数,種類,性別との適合性及びその読みが一般名と乖離し,その度合いが増すほどキラキラネームと認識されやすい.

キラキラネームは悪いことなのか?

キラキラネームは悪いことなのだろうか?

親は子に名を付けるとき,きっとなにがしかの想いを持つだろう.その表現の一つがキラキラネームと呼ばれるようになっただけのことであって,他所の子の名前について他人がとやかく言う必要はないというのが筆者の考えだ.

ただし,キラキラネームを付けることによって我が子が不利益を被る可能性があるのなら,出生届を役所に出す前にいったん立ち止まって考え直したほうがいいかもしれない.

なぜならこんなケースがあるからだ.

学会発表の抄録を紹介する(引用は黒太字部分).

伊藤他(2016)『奇抜な名前が社会的評価の印象形成に及ぼす影響』(日本認知心理学会第14会大会抄録)[3].

若年者と高齢者の顔画像(前者150枚,後者151枚)をそれぞれ42名と41名の大学生(被験者)に見せ,画像の見た目から視覚的評価スケールによって1(リーダーシップが発揮できない)から100(リーダーシップが発揮できる)でリーダーシップの程度を評価した

ただし,この画像にはもう一つ情報が加えられている.それは名前だ.一般的な名前と比べ,「奇抜」な名前(例示はないが,いわゆるキラキラネームと書かれている)と一緒に見せられた画像は見た目のリーダーシップが低いと評価された.かなり端折っているので気になる方は引用元にあたってほしい.

仕事ができそうなおじさんの名前が仮に「手斧(とまほーく)」だったらあなたはどう思うだろうか?筆者は能力と名前の間に関係があるとは思わない.でもそれは筆者がそう思うだけで,多くの人はそうじゃないかもしれない.

紹介した抄録からは,奇抜な名前が付された顔写真の場合,リーダーシップを感じない場合があること示された.人は名前という情報でその心証を左右され,人生で不利益を被る可能性があるかもしれないのだ.

おわりに

名前は時代によって変わりうる.江戸時代,宗門人別改帳によると百姓・女性の名前はひらがな2文字が非常に多かったという[4].もしかしたら数十年後はキラキラネームが当たり前の時代になっているかもしれない(もちろんそうじゃないかもしれない).

だが,今のところキラキラネームの多くは非常に読みにくいものばかりだ.このことがもたらす様々な影響を最も被るのは子供たちに他ならない.親は,自分が行使する命名という行為が我が子におよぼす効果について,もう少し考えても良いのではないか?と思う.

問われるのはキラキラネームを持つ子ども達ではない.キラキラネームを付けた親たちなのだ.

ではまた.

参考資料

[1]https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/15/1/15_TJSKE-D-15-00030/_pdf
[2]http://dqname.jp
[3]https://www.jstage.jst.go.jp/article/cogpsy/2016/0/2016_140/_pdf
[4]https://ja.wikipedia.org/wiki/キラキラネーム

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