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規制緩和後,貸切バス重大事故件数は増えたのか?高橋洋一氏記事グラフのローデータは何処にあるのだろう

当記事はプロモーションを含んでいます。

高橋洋一さんの記事を読む

軽井沢で起きたスキーバス転落事故のニュースにふれるたび,子を持つ親として胸が痛みます.

「この事故の遠因は規制緩和にあるのでは?」と思っていたらこんなツイートがタイムラインに流れてきました.


嘉悦大学教授,高橋洋一さんの記事です.

gendai.ismedia.jp

 

早速,読みました.【注:平成11年に道路交通法が改正され,翌年2月に施行されましたが,当時は小泉首相ではなく,小渕恵三首相でした】

高橋さんは,以下の図を示して規制緩和前後で貸切バスの事故率に違いはないと述べていました.

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国交省の統計でチェックしてみても、規制緩和によって事故率が大きく増えたとはいえないことが分かる。新規参入が多かった貸切バスについて、規制緩和の前後で有意な変化は見られない(新規参入の変わりがなかった乗合バスで変化があるように見えるが、規制緩和のタイミングではなく、別の要因だろう)。このデータから見て、「規制緩和によって事故が増加している」とはいえない。


上の図では規制緩和時期が貸し切りバスと乗り合いバスで異なっていますが,それは以下の理由によるとのことです.

バス事業には、「乗合バス」と「貸切バス」がある。今回事故を起こしたのは、後者の貸し切りバスだ。交通分野での規制緩和は先進国に多くの例があるが、日本での取り組みは遅れていた。1996年末の段階で当時の運輸省がようやく発表し、1998年度からの3ヵ年計画である第2次規制緩和推進計画に盛り込まれた。

貸切バスは先行して2000年2月に、乗合バスについては2002年2月に、需給調整規制の廃止等を内容とする改正道路運送法等が施行された。


上の図を見た限りでは,貸切バスの事故率が規制緩和前後で異なっているようには見えない気がしました.また,「第一に、バス運行会社が法令違反を犯した場合、営業停止のような処分も必要である。」および「第二に、旅行会社に対して、どこのバス運行会社を使うのか旅行者に対して開示する義務を負わせるべきだ。」という主張は納得できました.

でも,何かひっかかったので,図の元資料にあたってみました.

 


国交省 自動車運送事業用自動車事故統計年報(平成25年)です.平成27年3月に国交省自動車局によって作成されたもののようです.これじゃないかもしれませんが,本稿執筆時点での最新版です.

国交省 自動車運送事業用自動車事故統計年報を読む

「高橋洋一さんが記事で用いた図の原資料はこれでした」,と言いたいところですが,見つかりませんでした.そこで,各年における貸切・乗合バスの総走行距離および事故件数を探しました.当たり前ですが,これら二つのデータさえあれば,各年における事故率が算出できるからです.


貸切バス,乗合バス等の走行距離は次の表に記載されていました.

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貸切バスの規制緩和が行われた2000年(平成12年)以後,走行距離が増えてはいますが,平成11年からすでに16億km以上になっていました.平成17年の17.29億kmがピークで,平成25年には15.88億kmと平成10年と同程度になってますから,規制緩和による劇的な変化はないと言っていいでしょう.

先ほど述べたように,あとはそれぞれの年についての貸切バス・乗合バスの事故件数のデータさえあれば,高橋洋一さんのグラフが作れます.でも,見当たりませんでした.

元資料には,重大事故の件数が示されていました.重大事故の定義には死者を生じた事故,10人以上の負傷者を生じた事故はもちろん含まれています(詳細は国交省のPDF1〜2ページをご参照ください).重大事故件数について平成6年からの推移が読み取れるのは次の図です.

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この図2-2-1は数字が小さくて,特にスマホ画面では読み取れないと思います.一番下の折れ線グラフが貸切バスのものです.平成6年に119件だった重大事故が,平成25年には356件に増えています.

ただし,ここで注意してほしいことがあります.この図を見る限り,一つの折れ線グラフを除くと,のきなみ平成17年に数値が上昇しています.これは,車両事故によって運行できなくなったものが加わったせいです.「平成17年2月に事故報告規則が改正され,自動車の装置の故障により運行できなくなったもの(車両故障)に係る報告対象が拡大されている.」と図2-2-1の下に明記されています.

 

規制緩和前後での重大事故件数の比較はできなかった

図2-2-1はスマホはもとより,PCでも小さい数字は見難いです.そこで,貸切バスの総走行距離の表と上の図(図2-2-1)のバス重大事故件数を用いて,億km走行当たりのバス重大事故数の図を作ってみました.貸切バスのみにしたのは,今回の事故が貸切バスによるものだったからです.青の折れ線グラフが億km走行当たりの貸切バス重大事故数を示しています.

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この図から,億km当たりの貸切バス重大事故件数は平成10年に最低だったのち,上昇傾向にあることが読み取れます.特に,平成16年から17年にかけての増加とそれ以降の増加ぶりは顕著です.ただし,これはすでに述べたように車両事故によって運行できなくなったものが加わった影響が大きいようです.

つまり,この影響を排除したデータを用いなければ,平成12年規制緩和前後での事故件数・事故率を比較することは不可能です.私にはそのデータを見つけることができませんでした.高橋洋一さんはどこからそのデータを入手したのでしょうか?

結論

規制緩和前後で貸切バス事故率に違いはみられないという高橋洋一さんの見解について,現時点ではなんとも言えないという結論になりました.私が見た限りでは,規制緩和前後で貸切バスの事故率を比較できるデータは,高橋さんの記事に記載されていた国交省の元資料には見当たりませんでした.ローデータがどこにあるのかをご存じの方がいらっしゃいましたら,教えていただけたらと思います.

 

以上です.


悲惨な事故がもう起きませんように.

 

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規制緩和後,貸切バス業界にどんな変化があったのかについての記事はこちらです.

 

browncapuchin.hatenablog.com

【追記】ローデータは存在せず,グラフは高橋洋一氏による「独自」推計をもとに作成されたとのことです(以下の引用文中,赤の太字は筆者によります).呆れました.

【藤井聡】スキーバス転落事故の背景には、小泉竹中「規制緩和」があります… | 三橋貴明の「新」日本経済新聞

例えば、先に紹介した「事後チェックを強化せよ!」という論者の中には、「規制緩和後、事故が増えたとは思えない」という「データ」を「紹介」する記事もあります。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47417?page=2

その「データ」は、キャプションに「(資料)国交省 自動車運送事業用自動車事故統計年報」と書かれているのですが、この(資料)
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/subcontents/data/statistics56.pdf
には、上記「記事」に掲載されているグラフデータは存在しません(!)。

細かく申し上げると、「平成17年まで」には、上記「記事」に存在するデータは見られるのですが、「平成17年以降」には、その「記事」に掲載されているデータは見られません。

この点について「作者」に問い合わせたところ、このデータは「作者」が独自に推計した、というお答えをいただきました(この事実については、1月 23日に放送されたテレビ番組で示唆されています。なぜ平成17年前後で異なるのかと言えば、筆者が国交省に問い合わせたところ、その前後で、統計の取り方が変わったからだそうです)。

【追記】読売新聞2021年10月21日東京版夕刊1面と9面に事故の公判が始まったとの記事が掲載されていました。初公判まで5年・・・まだ長い時間がかかると思います。これからも見守っていきます。

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